マダガスカルの夜が明ける前。

 

月明かりに照らされた湖面は

その上をそうっと歩けそうなほどに

どこまでも穏やかで優しく輝いています。

 

湖のほとりに小さな薔薇の木がありました。

いまにも咲きそうに膨らんだ蕾を

ひとつ、つけています。

 

薔薇は、湖面に映った自分の姿を見て

朝が来たらどんな姿になるかしらと

うっとり夢みています。

 

美しく花びらを広げ、天使のハミングで

風の妖精シルフィードとダンスをしたら

どんなに楽しいでしょうか。

 

薔薇はこの時間が大好きです。

誰にも何にも邪魔されずに

本当の自分でいられるからです。

 

無理もありません。

マダガスカルで薔薇が生きてくるのは

大変なことでした。

 

たくさんの棘で身を守ろうとして

自分を傷つけたこともありました。

まわりは年中咲いている鮮やかな花ばかり。

みんな堂々と自慢げに見えました。

 

いまだって、本当は心配なのです。

朝が来ても蕾が開かなかったらどうしよう?

開く前に虫たちに食べられたりしないかしら?

それより、咲いた花が

まわりの花みたいに素敵じゃなかったら…?

 

考え始めると

このまま朝が来なければいいのに

と思ってしまいます。

 

なにしろ、生まれて初めてつけた蕾でした。

大切に、大切に、守ってきたのです。

 

その様子を見ていた月の女神が

薔薇をやさしい光でそっと包みました。

すると、夜露は小さな真珠に変わって

きらきらと輝き始めました。

 

薔薇が湖をのぞき込むと

水面に映る自分の姿は

見たことがないほどに素敵です。

心が輝き出すのを感じました。

どこからか自信が湧いてきます。

 

この気持ちは何でしょう?

月の女神の魔法でしょうか?

 

それは、実のところ

薔薇がもともと持っていたものでした。

懸命に自分を守ろうと隠しているうちに

自分でも忘れてしまったものだったのです。

 

内側から湧きだす愛を思い出した薔薇には

もう不安など、すっかりありません。

 

遠くの空が明るんできました。

月の女神にもらった真珠は

いち早く朝焼けの色を映しています。

夜明けを前にして

薔薇は、誇らしい気持ちでいっぱいです。

 

ところで薔薇は、まだ固い小さな蕾が

ひそかに育っていることを知りません。

初めての蕾のことばかり考えていたので

気がつかなかったのです。

 

すっかり夜が明けたら、知ることでしょう。

水面に映る、

うつくしく咲き誇った自分の姿を見て。

Madagascar Rose Quartz, Fresh Water Pearl, Poppy Pearl, Peridot, Moonstone, Silk Cord